医薬品メーカーや卸、医療機器メーカーのシステム担当者にとって、EDIは単なる受発注ツールではありません。人命に関わる物資を、正確かつ安定して供給するための基盤インフラです。
本記事では、JD-NET第8次稼働をはじめ、INSネット(ISDN)のうち「ディジタル通信モード」の段階的終了(2024年1月~)およびINSネット提供終了(2028年12月31日)を見据えた環境変化※、新旧コード混在への対応策などを解説します。
医薬品や医療機器の流通において、EDIは安全管理を支える基盤として重要な役割を担います。取り扱う商材は患者の生命に直結するため、欠品や誤出荷は許されません。発注データと現物の不一致は、医療現場での投与ミスや手術遅延につながるリスクがあります。
正確な供給を支えるため、業界標準としてJD-NETや@MD-Netが整備され、商品コードやロット番号に関するデータ交換規約が定義されています。効率性よりも、正確性・再現性・監査時の追跡可能性が重視される領域です。
EDIは、企業の信頼と患者の安全を支える必須基盤といえます。
医薬品業界のデータ交換は、通信インフラとコード体系の双方が変化する過渡期にあります。NTT東日本・西日本によるISDN(INSネット)のディジタル通信モード終了を背景に、従来のレガシー手順からインターネット手順への移行が急がれています。
あわせて、JD-NET第8次稼働に伴い、統一商品コードからGS1標準(GTIN)への移行も進行。取引先ごとに新旧コードが混在する状況が生じ、システム側での変換処理やマスタ管理は複雑化。手作業による対応は原価計算のズレや在庫管理ミスを招くため、自動化によるリスク抑制が不可欠です。
医療機器業界では、独特の取引形態への対応がEDI構築の難所となります。業界VANである@MD-Netを利用したデータ連携が一般的ですが、取引は単純な買取にとどまりません。病院内に製品を預ける預託在庫や、手術時のみ持ち込む貸出といった商習慣も存在します。
所有権の移転タイミングと実際の使用タイミングが一致しないため、在庫管理や補充発注、請求処理の整合性を保つ難易度が高くなります。基幹システムとEDIが密接に連携していなければ、正確な在庫把握は困難です。
環境変化や法規制に対応し、安定供給を維持するために、今後のEDIには3つの機能要件が求められます。
2027年11月13日のJD-NET新旧フォーマット並行運用終了に向け、GTINへの移行は段階的に進められています。移行期間中は、取引先ごとに異なるコード体系でデータが送信される状況が発生します。
受信データが新旧いずれのコードであっても、自社の基幹システムに適した形式へ自動変換できる仕組みが不可欠。変換プロセスをシステム化し、人手による判断を排除することで、商品マスタ不整合(コード違い・変換ミス)による誤出荷や欠品を防ぎます。
医薬品の適正流通ガイドライン(GDP)への対応が求められる中、流通過程における品質管理は一層厳格になっています。
万が一リコールが発生した場合、対象ロットがどの医療機関に納品されたかを即座に特定する必要があります。EDIデータ上でGTIN、ロット番号、有効期限が正確に紐づき、トレーサビリティが確保されている状態が前提です。
迅速な回収対応は、企業の社会的信用を守るための重要な条件となります。
医療供給を支えるEDIには、24時間365日の安定稼働が前提条件となります。オンプレミス型の自社運用では、ハードウェア老朽化や担当者の退職、拠点被災といった停止リスクを内包します。
監視や障害対応、バックアップを専門事業者に委ねるクラウド型やマネージドサービスの採用が進んでおり、災害時でも供給を止めないためのBCP対策が、システム選定における重要な判断基準となっています。
環境変化に対応し、安定した物流基盤を構築した2社の事例を紹介します。共通しているのは、EDIを単なる通信手段としてではなく、業務変革の起点として位置づけている点です。
事業規模の拡大に伴い、従来の生産管理システムや個別業務ツールによる運用は限界に達していました。見込生産と受注生産が混在する中で在庫管理は複雑化し、欠品や過剰在庫のリスクが顕在化していました。
JD-NETによる受発注データと社内の生産・在庫データが分断された状態は、迅速な意思決定を阻む要因となっていました。
医薬品製造業に特化した基幹システム「JIPROS」を採用し、全社的な基幹刷新を実施しました。
JD-NET連携機能を基幹システムに組み込むことで、受注から生産、出荷までのデータを一気通貫で管理できる環境を構築。卸からの実消化データを含めた情報活用が可能となり、製販調整の精度向上と業務標準化が進んでいます。
【大手医薬品メーカーE社 ご担当者様】
日本国内での自社流通開始にあたり、グローバルで利用しているSAP ERPと、日本のJD-NETを連携させる必要がありました。
海外のITチームにとって、日本独自の商習慣やJD-NETの詳細仕様を理解したうえで実装するのは容易ではありません。限られた期間の中で、グローバルシステムへ影響を与えず、日本固有のEDI要件を満たすことが大きな課題でした。
医薬品業界の商流とITに精通したビジネスエンジニアリングの支援を受け、SAPとJD-NETを接続する連携基盤を構築しました。技術面だけでなく、業務運用の整理まで含めたサポートにより、国内流通を計画通り開始しています。
運用開始後も大きなトラブルは発生しておらず、グローバルポリシーを維持したまま日本独自の商流に対応できる体制が確立されています。
【GEヘルスケアファーマ ビジネスオペレーション部 カスタマービズ&ロジスティクス スペシャリスト
栗山 瑠美 氏】
【GEヘルスケアファーマ ビジネスオペレーション本部
本部長 平井 佐知子氏】
自社のEDI環境を見直す際、比較検討の軸となるポイントは以下の3点です。機能の有無だけでなく、運用段階でのリスク回避まで含めて確認する必要があります。
2027年の並行運用終了まで、取引先から送信されるデータ形式は揺れ続けます。受信データの商品コードが旧コードであっても新コードであっても、社内システムには統一形式で受け渡せる変換機能が不可欠です。
コード変換の履歴がログとして残り、いつ・どのような変換が行われたかを追跡できる仕組みがあれば、監査対応も円滑に進められます。
数量や金額といった取引情報だけでなく、品質管理に直結するロット番号や有効期限が、受注・出荷・請求の全プロセスで欠損なく連携されるかを確認します。
JD-NETの新フォーマットでは、ロット単位でのデータ管理が前提です。返品や回収が発生した場合でも、対象製品の所在を即座に特定できるトレーサビリティ機能は、企業のリスク管理力を左右します。
システム障害は、そのまま医薬品供給の停止につながります。オンプレミス型とクラウド型を併用する場合であっても、監視体制が一元化されていることが重要です。
夜間や休日を含む障害発生時に、一次切り分けから復旧支援までを担うマネージドサービスが提供されているかを確認しましょう。JD-NET新仕様などへの変化にも、追加負担を抑えて追随できるサービスかどうかが選定の分かれ目となります。
業界特有の要件や取引を効率化させ、属人化を解消できるEDIサービスを選定するには、導入の目的に合致したものであるかどうかが重要ですが、個別要件が複雑に絡むEDIにおいて、自社に合うサービスを見極めるのは容易ではありません。
当メディアでは、各社が提供するEDIサービスの特徴や仕様、事例を詳しく調査。
特にニーズの高い「現場の個別仕様の吸収」「業界ルールの遵守」「手軽な導入」という3つの目的別に、おすすめのEDIサービス3社を厳選して解説しています。自社要件に適したサービス検討の参考として、ご活用ください。
【生活用品商社】百貨店・量販店ごとの複雑な個別ルールをすべて吸収し、ファイル交換型と3つのWeb-EDIを統合。高難易度の移行をトラブルなく完遂。
【自動車部品メーカー】SAP本体への作り込みを少なく抑え、業界特有の通信手順や閉域網への接続をEDI側ですべて吸収。変化に強く、長期的に安定する連携基盤を確立。
【食品メーカー・卸】電話・FAX依存の注文をWeb-EDIへ集約し、複数の飲食店からの受注を一元管理。手作業による入力負荷をなくし、正確で効率的な業務へ刷新。